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人生の終末を思い描く

 先日、親族が入院のため一緒に病院に入院手続きに行ってまいりました。

大した大病ではないはずなのに、6つもの同意書への署名が必要になり、ビックリ。

お医者さんと看護師の方にお聞きしたところ、万が一のため、病院としての訴訟リスクを避けるためとのことでした。

なるほど。いくつもいくつも書類へのサインが必要で、「すみません、すみません」と謙虚に丁寧に説明いただく姿が印象的でした。

でも、本当に現代は訴訟が多いんでしょうね。

テレビでは何でもかんでも「訴えてやる!」のセリフがいつの頃からか流行り、外圧でアメリカのような訴訟社会に転換しつつある昨今では仕方がないのかもしれません。

雑誌では医療ミスなどの記事も時折目にすることもありますし、ケースによって一方的にどちらかを責めるわけにはいかない複雑な背景がありますが、現在は医師と患者(家族を含む)との信頼関係が昔と比べると毀損しているような気がしてなりません。

かつては学校の先生やお医者さんなどはとっても信頼が厚く尊敬の対象であったはずです。

性善説で生きたいと考える私には、時代の流れとはいえ不幸な時代ともいえます。

話が戻りますが、病院でサインした書類の中でも人工呼吸器などの延命治療についての判断を求められる署名には深く考えさせられるものがありました。

こうしたテーマになると必ず私の頭をよぎるのは、クリント・イーストウッド監督主演の映画『ミリオンダラー・ベイビー』です。2005年のアカデミー賞で四冠(作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞)受賞。よみうりシネマ倶楽部でも2007年6月に上映しました。

アメリカの白人貧困層を形成しているアイリッシュ・カトリックの女性ボクサーが、老トレーナーと二人三脚でトップを目指しのし上がろうとする話です。

あと一歩でチャンピオンというところで試合中に致命的な怪我を負ってしまい全身麻痺に。

物語の後半は親子関係をも超えた老トレーナーと彼女との絆の深さが涙を誘います。

現在でも法的にも大変にナーバスな問題である「尊厳死」というテーマに対して、まっすぐに、極めて真面目に、そしてクリントの真骨頂である弱者に優しい視点で観る者に問題を投げかける、そんな自分の人生にも大きな影響を与えた忘れられない作品です。そういえばh、ジョージ・クルーニー主演作品『ファミリー・ツリー』(シネマ倶楽部で2013年1月上映)もハワイの素敵な景色を背景に「尊厳死」について深く考えさせられる作品のひとつでしたね。

自身が健康なうちに、自分の人生の終わり方を主体的に設計することや、いつか全ての人に必ず訪れる「死」について思考停止せずに思いを巡らせることが、これからの人生をより実り豊かな価値あるものにしていくと、齢五十を過ぎてからしみじみ感じるようになりました。

目の前で起こること、経験すること全てが勉強ですね。だから人生は楽しい。